去年に引き続き、今年も夏の終わりに娘と娘の友達家族を誘って、滋賀県大津市にある三井寺(園城寺)で開催された夏の人気イベント「三井寺の妖怪ナイト」へ行ってきました。
歴史ある境内に本物の妖怪たちが潜むという、大人も子どもも怖がって楽しめる、特別な夜。天候はあいにくの小雨模様でしたが、最終日ということも重なり、独特のしっとりとした幽玄な雰囲気に包まれた素晴らしい体験となりました。
雨模様の最終日、三井寺へ
当日は朝からパラパラと雨がチラつく天候でした。野外イベントということもあり「大丈夫かな?」と一瞬頭をよぎりましたが、子どもたちのワクワクした表情を見れば行く以外の選択肢はありません。雨具をしっかり準備して出発しました。
現地に到着したのは、イベント開始前の夕方。三井寺の駐車場(普通車600円)は混雑が予想されましたが、天候が雨だったこととイベント最終日というタイミングもあってか、待つこともなくすんなりと車を停めることができました。子連れのイベントで駐車場にスムーズに入れるかどうかは親にとって大きなポイントなので、まずは幸先の良いスタートです。
受付周辺に着くと、すでに境内には妖怪たちの気配が漂っており、子どもたちはもちろん、一緒に行ったお友達家族のパパやママも自然とテンションが上がっていくのを感じました。
自分だけのお面づくりでテンションMAX
入場ゲートをくぐる前に、まずは境内前で販売されていた「狐や猫のお面」を今年も購入しました。真っ白なお面に、自分たちで好きな色を塗ったり模様を描いたりしてオリジナルのお面を作るワークショップです。
子どもたちはテーブルに並んだペンを手に取り、夢中になってお面に向き合っていました。 「私は目の周りを赤くしてかっこいいお面にする!」 「わたしはカラフルで可愛い感じにするね!」 とお互いのお面を見せ合いっこしながら、楽しそうに色を重ねていきます。
完成した自分だけのお面を頭につけると、気分はすっかり妖怪ナイトの仲間入りです。まだ周囲は明るかったものの、非日常の世界へ足を踏み入れる前のワクワクとドキドキが最高潮に達していました。
黄昏時から始まる妖怪たちとの遭遇

スタートした直後はまだ空に明るさが残っており、境内に仕掛けられた青や赤のライトアップも、まだその真価を発揮しているとは言えない淡い光具合でした。しかし、これが逆に子どもたちにとっては絶妙な導入となりました。
最初から真っ暗闇だと怖がって足が止まってしまう子もいますが、薄明るい中なら「あ!あそこに何かいる!」と好奇心旺盛に歩き出せます。雨がチラついていたため、妖怪たちも濡れないように境内のテント下などにスタンバイしており、子どもたちはお面を揺らしながら次々と妖怪たちのもとへ駆け寄っていきました。
普段なら絵本や図鑑でしか見ないようなリアルな造形の妖怪たちを前に、最初は少し腰が引けていた子どもたちも、テントの下でポーズを取ってくれる妖怪たちとピースサインで記念撮影。境内の奥、本堂(金堂)へと続く参道を進むにつれて、夕闇が一段と濃くなり、周囲の木々や石段が徐々に妖しげな影を落とし始めます。この「少しずつ暗くなっていく時間経過」のおかげで、子どもたちも徐々にスリリングな空気に慣れていくことができました。
暗闇の本堂と、ひしめく妖怪たち

本堂に到着する頃には、空は完全に帳(とばり)を下ろし、濃密な夜の闇が広がっていました。境内を照らす赤や青、紫の妖しいライトアップが本格的に本領を発揮し、国宝である三井寺の重厚な本堂が、まるで異界への入り口のように浮かび上がっています。
本堂前の大階段に目を向けると、そこには無数の妖怪たちが所狭しと腰掛けていました。 ネズミの妖怪の鉄鼠、三つ目、……様々な姿形をした妖怪たちが、夜の闇の中でじっとこちらを見つめたり、ゆらりと身を揺らしたりしています。その光景はまさに百鬼夜行そのものです。
子どもたちは大興奮で階段へ近づき、お気に入りの妖怪を見つけては横に並んでハイチーズ。妖怪たちも時に優しく、時に不気味にリアクションを返してくれ、バッチリ記念写真を撮ることができました。
記念撮影を終え、本堂の周囲をぐるりと回る回廊へと足を進めると、そこはさらに緊張感の漂うエリア。物陰から急に妖怪が飛び出してきて「ウワッ!」と驚かされる場面もあり、子どもたちは「キャーッ!」と叫び声を上げながら大人たちの後ろに隠れたり、手をぎゅっと握りしめてきたり。怖がりながらも満面の笑みで逃げ回る姿は、まさに夏休みの醍醐味そのものでした。
漆黒の堂内に響く琵琶の音と怪談師の語り
一通り境内の妖怪たちとの触れ合い(とスリル)を楽しんだ後は、本堂の中で行われるメインプログラムの一つ、「怪談話」を聞きに向かいました。
夜の本堂内は静まり返り、ほのかな明かりの中に怪談師と琵琶奏者の方が座っています。 重厚な堂内の空気感、怪談師の低く語りかけるような独特の口調、そして静寂を切り裂くように爪弾かれる琵琶の「ベベン……」という硬質な音色。それらが絶妙に絡み合い、肌が粟立つような怖い雰囲気が何倍にも増幅されて堂内を満たしていました。
個人的な話になりますが、僕はアニメの『平家物語』や映画『犬王』を観て以来、すっかり琵琶の音色と語りの力強さに魅了されていました。さらに最近では、室町時代の田楽や能楽の創世記を描いた漫画『ワールドイズダンシング』にもドハマりしていたため、「歴史ある古刹の本堂で、生の琵琶演奏を聴ける」というシチュエーションだけでも興奮していました。張り詰めた弦が弾かれ、空気が震える音を肌で直接感じる体験は、格別の趣がありました。

子連れのリアルと、夜風に乗る「耳なし芳一」
しかし、そんな大人の感動とは裏腹に、子どもたちにとっては少々ハードルが高かったようです。 最初に披露された演目は三井寺にまつわる古い怪談話だったのですが、歴史的な背景や昔ながらの少し難しい語彙が含まれていたこともあり、小学生の娘たちには内容を理解するのが難しかった様子。
せっかくの素晴らしい生演奏と怪談でしたが、子どもたちが途中で退出していったので、僕たちも1話目を聴き終えて退出することにしました。それでも、あの張り詰めた空気と琵琶の響きを少しでも生で体感できたのはとても良かったです。
本堂の外に出ると、心地よい夜風が雨上がりの境内を吹き抜けていました。 境内中に設置されたスピーカーからは、本堂内で行われている怪談の続きと琵琶の音がクリアに響き渡っています。耳を澄ませてみると、2話目に始まったのは誰もが知る名作「耳なし芳一」でした。
「あ、耳なし芳一だ……! これなら平家の亡霊の話だし、子どもたちも知っている有名なストーリーだから分かりやすかったのに!」
と、少し苦笑い。とはいえ、スピーカーから流れる芳一の物語と琵琶の哀切な音色をBGMにしながら、妖しく光る夜の境内をゆっくりと歩いて駐車場へと向かう帰り道もまた、風情があって悪くありませんでした。
雨のチラつく最終日でしたが、混雑に巻き込まれることもなく、手作りのお面に大はしゃぎし、たくさんの妖怪たちと写真を撮り、本物の琵琶の音と怪談に浸ることができた大満足の夜でした。
日常を忘れさせてくれる三井寺の空間美と、夏ならではの妖怪たちのエンターテインメント。子どもたちの記憶にも、夏の終わりのちょっぴり怖くて楽しい思い出として深く残ったはずです。また来年もぜひ、家族みんなでお面を被って訪れたいと思います。



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