「今年もはじめよう」って気持ちになるのは、不思議といつもこの時期なんですよね。空気がやわらかくなって、土の匂いが変わって、窓から見える山がうっすら緑になってくる。そういうのが重なったとき、よしっ今年も頑張るか、って気合が入ります。
棚田オーナーとして田んぼに関わるようになって、もう何年か経ちました。最初の年は何もわからなくて、ただ言われた通りにやるだけ。でも今は、作業の意味とか、土の状態とか、ちょっとずつわかってきた気がしています。それでも毎年、「今年はどんなことが起きるんだろう」っていうドキドキ感は変わらないんですよね。農業って、思い通りにならないことが絶対あって。そのことを、田んぼは毎年ちゃんと教えてくれます。
今年のスタートは、ちょっと波乱含みでした。でもそれが、かえってお米作りの面白さを改めて実感できる体験になったんです。今回はその一部始終を、あるがままに書き残しておこうと思います。
2週間の遅れのスタート、そして草の勢い

本来なら、今年の作業開始は4月初旬の予定でした。最初にやる「中割り」っていう作業は、冬の間に盛り上がった土の畝を崩しながら田んぼ全体を平らにならす、いわば農作業の年明けみたいな工程です。ここをちゃんとやっておくかどうかが、その後の田植えや水管理にも響いてくる、大事な準備になります。
今年は、4月に入っても雨が続きました。「明日こそは晴れるだろう」と天気予報を眺めること数日。結局、天気が落ち着いたのは4月も中旬に入った頃で、気づいたら予定より2週間近く遅れてしまっていました。
現地に着いて、まず目に飛び込んできたのは緑の勢いでした。畦(あぜ)も農道も、草がぐんぐん伸びている。春だなあと感じると同時に、「あー、これは草刈りもひと仕事あるな」と、思わず気が引き締まります。
植物って正直ですよね。人間が来ていなくても、雨が降って気温が上がれば、ちゃんと育つ。その生命力の強さには、毎回感心させられます。頑張って育てている庭の野菜はなかなか上手く育たないのに…。管理する側としては、その力をうまく相手にしないといけない。農業の基本的な緊張感って、そこにあるんだと思います。
作業が遅れている焦りは少しありました。でも現場に立ったら、今ある状況からやるしかないんですよね。そういう気持ちの切り替えが、田んぼに関わり続けることで自然と身についてきた気がしています。
冬の不在と、今年の思い
正直に言ってしまうと、今年の冬は田んぼに来られませんでした。仕事の繁忙期が重なったり、寒さに負けたり、理由はいろいろあったんですが、結果として管理はすべてお任せになってしまっていました。
作業を教えてくれている先生が、その間もちゃんと田んぼを維持してくれていた。そのことへの感謝と、申し訳なさが正直ありました。
農作業って、一人じゃ成り立たないんですよね。みんなの協力、経験のある先生の知恵、仲間との時間が重なって、はじめてお米は育つ。その一員としての責任を、今年は改めて感じています。
だからこそ今年は「もっとちゃんと関わろう」という気持ちが強くあります。自分の区画の作業だけじゃなくて、周りの畦の草刈りや共有スペースの整備にも積極的に参加すること。小さなことかもしれないけど、そういう積み重ねが棚田全体の環境を守る力になる。そう思うと、草一本刈る手にも意味が出てくる気がします。
農業の世界では、サボった年のツケは必ず翌年に回ってくると言われます。土の状態、水路の詰まり、雑草の根。目に見えないところでじわじわ影響が出てくる。今年の冬の不在を取り返すつもりで、一つひとつの作業を丁寧にやっていこうと心に決めました。
中割り作業と、トラクターの繊細さ

さて、いよいよ本題の中割り作業です。一見するとトラクターで土をかき回すだけのシンプルな作業に見えますが、実際には、これが非常に繊細な判断の連続のようです。
棚田は地形がそもそも複雑です。平野の田んぼと違い、傾斜地を段々に造成しているため、区画ごとに土質や水はけが異なります。柔らかい場所、硬い場所、水分を含みやすい場所。トラクターを動かしながら、その場その場で判断し、車体の重心と泥の柔らかさを見極めながら進んでいく必要があります。
今年も昨年と同じく入水口辺りの土が、やはり柔らかくなっていました。雨が続いた後ということもあり、いつも以上に注意が必要な状態です。前進で乗り込もうとすると車体が沈み込んでしまう可能性があるため、ゆるい箇所へはバックでゆっくりと進入していきます。
「バックで入る」というのは、言葉にすれば簡単ですが、実際にやってみると方向感覚が狂いやすく、壁や水路との距離感もつかみにくい。農機具の扱いに慣れていても、慎重にそれでいてギリギリまで攻めていきます!比較的条件の良い田んぼでは運転を体験させてもらいましたが、今回の区画は難度が高いので全てお任せです。
それでも——自然は甘くありませんでした。
まさかのスタック。そしてユンボ登場

慎重に、慎重に。そしてぬかるんでいるいる場所はバックで少しずつ進入していたトラクターでしたが、ある瞬間、その動きを止めました。タイヤが回転する音はするのに、車体が前に進まない。。
スタックです。柔らかい土にタイヤが沈み込み、空転状態になってしまいました。
こういった事態も棚田では想定内です。ちゃんと近くにユンボ(バックホー)を待機させてあります。すぐにユンボを使ってトラクターを引き上げる作業が始まりました。
何の重機でも上手に扱える先生はカッコいいです!ユンボのアームでトラクターをゆっくりとぬかるみから引き上げて、無事にトラクターを救出。その後の作業を続けることができました。
無事に、このハプニングも解決できました。ただ今年もまた新たな場所を復田して田の枚数が増えたので先生の負担がどんどん増えていっており、自分たちが少しでも早く作業を覚えて重機を扱えるようになり負担を減らしてあげないとと強く感じました。
草刈りと、心地よい疲労感

トラクターのスタックと救出という一幕を経て、作業は草刈りに移りました。畦沿いに伸びた雑草を刈っていく、地道だけれど田んぼの景観と機能を守るために欠かせない作業です。
久しぶりの農作業ということもあり、最初は体がやや重く感じます。腕の動かし方、足場の確認、刈り幅の調整。頭と体が少しずつ農作業モードに切り替わっていく時間が、最初の15分ほどあります。
慣れてくると、リズムが生まれます。一定のペースで草を刈り、少し位置をずらしてまた刈る。単調なようで、実は土の硬さや草の種類によって微妙に力加減が変わる。そういう細かい調節を体が勝手にやり始めると、「ああ、戻ってきたな」という感覚があります。
気温は程よく暖かく、作業をしていると汗ばむ程度。ジムで汗をかくのとも、通勤で歩くのとも違う、自然の中での体の使い方。決して楽ではないけれど、「気持ちいい疲れ」とでも言うべき感覚が全身に広がっていきます。
作業の合間に吹いてくる春の風は、本当に格別でした。汗ばんだ体に触れるその涼しさ。草の青い匂いと、田んぼの土の匂いを運んでくる空気。思わず手を止めて、ただその風を受けていたくなる瞬間がありました。
「ああ、今年も棚田がはじまったな」と、心から実感できる瞬間がそこにありました。
棚田で感じる、季節の呼吸

棚田での活動って、「農業体験」って言葉だけじゃ語り切れないものがあります。一言で言うなら、季節の呼吸を体で感じられる場所、というのが一番近いかもしれません。
冬の棚田は静かです。何も動いていないように見えて、土の中では微生物が活動していて、来春に向けた準備がひっそり進んでいる。その静けさがガラッと変わるのが、ちょうど今の時期です。気温が上がって、雨が降って、光が差してくると、あらゆる命が一斉に動き出す感じがします。
雑草が伸びるスピード、虫の声が変わるタイミング、水の冷たさがやわらいでいく感覚。カレンダーじゃなくて、自然そのものが「そろそろ次の作業の時期ですよ」って教えてくれるんです。それを感じ取れるようになってきたのが、棚田に関わる醍醐味のひとつだなと思っています。
今年みたいにスタートが遅れることもある。機械がスタックすることもある。思い通りにいかないことの方が、むしろ多いくらいかもしれません。でも、それも含めて自然との付き合いなんですよね。こっちがスケジュールや計画を立てていても、自然は自然のペースで動いている。その大きさに素直に向き合うことが、農業を続けていく上で大事な姿勢なんだなと、最近しみじみ感じます。
そして不思議なもので、そういう「思い通りにならなかった体験」の方が、後になって強く記憶に残っているんですよね。トラクターがスタックした瞬間の緊張感、ユンボが引き上げてくれたときの安堵感、風が吹いた午後の清々しさ。そういうのが全部まとまって、「今年の田んぼ」っていう記憶になっていく。そういうもんなのかなと思います。
今年のテーマは「関わること」
スタートは2週間遅れました。冬の間、来られなかった時期もありました。でも今日、こうして田んぼに立って、土の匂いを嗅いで、風を受けることができた。それだけで、今年もちゃんと始まったなって感じがしています。
今年は「関わること」をテーマにしようと思っています。結果や成果よりも、どれだけ現場に足を運べたか、どれだけ作業に手を出せたか、周りの人とつながれたか。そういう過程を大事にしていきたいな、と。
この先も、田植えに、草刈りの繰り返し、そして秋の収穫と、いろんな工程が待っています。毎回何かしら予期せぬことが起きると思うけど、それも含めて楽しんでいけたらいいなと思います。
さあ、今年も美味しいお米ができますように!頑張ります!



コメント